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異文化間コラボレーション、コロナウィルスそしてPlayful Kimono

異文化間コラボレーション、コロナウィルスそしてPlayful Kimono

Playful Kimono、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館との共同制作、そしてロックダウン下における異文化間コラボレーションについてフランクリン・ユーフィミアが語ります。

今年3月を振り返ると、英国の最初のロックダウンのニュースがあれよあれよと言う間に広がった当時を今でも不穏な気持ちで思い出します。Unprecedented(前代未聞の)とかnew normal (新たな正常)と言った表現が全国くまなく慣用表現となるにいたり、国民全体が呆然としたのでした。この異常事態が長期的に何を意味するのか解釈しようとしても、それは過去も今現在も不可能であることに変わりはありません。

当時私は5年にわたるグラフィックデザインの勉強の総仕上げの段階にあり、最終ポートフォリオの制作をしていました。全世界を覆った健康危機の最中にあって、「大学を出たら何をするのか?」という卒業時の問いはすっかり新しい意味に取って代わられたのでした。イベント企画や展覧会で仕事をするデザイナー兼プロデューサーとして、人々を一堂に集めることが私の仕事の中核を成します。実際私がポートフォリオをデジタル化せざるを得なくなったその直前に手がけたプロジェクトは、オックスフォード・サーカスにあるG.F. Smith社の地下ギャラリーでのインスタレーションで、来場者が作品にじかに手を触れることのできる展覧会でした。今では全く不可能な企画です。コロナウィルスがいよいよその存在を明らかにし、ソーシャルディスタンスを余儀なくされた時、私は人々がどうしたら集まることができるのか、批評眼を据えて考え始めたのです。

「水の底: 紙と動き」展での紙製の鯨のインスタレーション G.F. Smith社にて 2020年3月 フランクリン・ユーフィミア、ロールズ・ティルダ、ワード・ネイサン

数か月にわたり、博物館や美術館はぴしりと門を閉ざしました。と言うのも、人の集まる公共の場所が引き続き開いているのはもはや安全ではないということが疑う余地もなくなったからです。突如として、これまで私たちが経験したこともないデジタルメディアに文化は突入することになりました。バーチャル美術館の出現、博物館内収蔵品のビデオツアー、そしてオンラインでの美術史クイズなどが私たちのスマホに頻々と出現し始め、ジャンクメールのフォールダー行きとなったものあり、ソーシャルメディアに勢いよく突入するものありと言う様相を呈しました。遠く離れたところから意味ある文化的経験を届けるにはどうしたらいいのか、と言うことこそ、すべてに優先された問いかけだったのです。

「Playful Kimono – 遊び心の着物」の誕生

Playful Kimonoはパンデミックの厳しい現状の元、家の中に籠ることを余儀なくされた人たちにクリエイティブな作業を提案するために私が始めたプロジェクトです。広げた着物をかたどったシンプルなテンプレートを使ってイメージをはめ込むことで、自分ならでは着物はどんなふうに見えるのか想像を楽しむことができます。このプロジェクトの発想の元となったのは、雛形本と呼ばれる江戸時代の着物の見本帳で、そこには美しく描かれた着物のデザイン画が収められています。最初私はこんな発想は誰にも相手にされないだろうかと思ったのですが、まず何点かのデザインを長年着物を着ている日本人の母に見せたところ、母は「あら、遊び心満載ね!」と思わず叫んだのでした。

近代的な紋様:「鶴の鳴き声」中島丹次郎作 1724年大阪 V&A所蔵

著者によるPlayful Kimono初のデザイン。スウェーデンの森林の写真を使用

このテンプレートは、着物をデジタルにぱっと楽しくデザインすることができるようにと、Photoshopを使って私が独自に作ったものです。当初いくつかのデザインを自分のインスタグラムに載せてみたところ、友人たちが自分もやってみたいと言ってきました。同じテンプレートを使って彼らが送ってきた着物のデザインは、あっと驚くほどにクリエイティブなものでした。そんなわけで、専用のインスタグラム@playful_kimono上で、寄せられた作品を収集、整理、公開するキュレーションを行うことになりました。どんどん反響を呼び、デザインが寄せてくれる人が増え、始めて間もなくインスタページは色とりどりのユニークな着物でいっぱいになりました。私はたくさんの人々を素晴らしい着物の世界にいざない、孤立を余儀なくされる状況下にあって異文化間コラボレーションを実現したいと思いました。

「パッチワーク」Maili作

「蜜」George Davison作

「希望」Megan Barclay作

Playful 着物とV&A博物館

私は卒論に、千年以上も遡る歴史を持つ京都の絹織物である西陣織りを取り上げましたが、特に着物のデザイン(模様)とテキスタイル(織物)に関心を持っています。大学での最終学年を通してずっと私はヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の「着物:京都から世界のランウェイへ」展を楽しみにしていました。4年と言う時間を費やし仔細を極めて準備された展覧はしかしながら、たった19日間開催されただけで中止となったことは遺憾でした。

着物: 京都から世界のランウェイへ 2020(V&Aの許可により転載)

私がV&AのマーケティングチームからPlayful 着物のプロモーションをしたいと打診されたのは、まさにこの休止期間中のことでした。この世で私が最も敬愛する博物館の一つであるV&Aからの打診に驚嘆した私は、一も二もなく承諾しました。その後すぐ、V&A所蔵コレクションのイメージを用いた着物デザイン4点が、V&Aのソーシャルメディアに発表されました。このアップは140万人のV&Aフォロワーに届き、10,510のlike と56のコメントが寄せられました。その同じ朝、Playful Kimonoのインスタグラムと私自身の仕事関係のページの閲覧者は2倍に達し、このプロジェクトについて何百件ものメッセージを受け取りました。気が付くと私はテンプレートをイスラエルやコロンビアと言った遠方の国々に送って、いったいどんなデザインが返ってくるのかとワクワクしながら待っていました。

V&A 博物館によるPlayful着物デザイン

この時からでしょうか、このプロジェクトにおける異文化間コラボレーションが飛び立ったのは。ある午後の一コマにPhotoshopをちょっといじっていたあの時、このプロジェクトがここまでグローバルに拡散するなんて想像もできませんでした。V&Aのウェブサイトに紹介されてから、私はV&Aのブログにこれについて寄稿し、そのインスタグラム上でPlayful Kimonoデザインコンテストを開催し、インスタグラム・ストーリー上で入賞作を選ぶという企画を実行しました。Alex Franklin氏の卓越したプログラミングにより、デザインプロセスをもっと簡略化し、アクセスを簡易にしたPlayful Kimonoウェブサイトを立ち上げました。

「ペルシャ」Kathy作

「ギリシャのモザイク」Lily D作

「若いやつら」Tom Knapton作

異文化間コラボレーション

英国はロックダウンの強化と緩和の間を行ったり来たりしていますが、驚いたことにそのようなことに影響されることなく、Playful Kimonoに寄せられる関心は安定しています。私のウェブサイトには日々新しいデザインが寄せられ、それをキュレーターとしてウェブサイトのギャラリーページやインスタグラムに載せるのは大きな喜びです。世界中の人々がテンプレートをワンクリックし、どんな着物に生まれ変わるのか思い描くそれこそは異文化間コラボレーションです。いろんな国が国境を閉ざし、博物館もフルに門戸を開け放つことができない今、オンラインで創造的なコミュニティーを作ることは必要不可欠なことだと思います。現在私はPlayful Kimonoをもっと良いものにし、その成長をまた地球規模の参加者たちと共有していきたいと思っています。


著者について

ユーフィミアは日英両国籍を持つグラフックデザイナーで、ロンドンに住んでいる。手がける仕事の大半は、様々なイベント、展覧、教育活動等を通し文化的経験を分かち合うことに焦点を置いている。現在国立海洋博物館のアシスタントプロデューサーとして若者向けに教育プログラムを実施しており、同時にロイヤル・カレッジ・オブ・アートとV&A共同による修士課程でデザイン史を学んでいる。Playful Kimonoは、彼女のデザインの実践と学術リサーチを兼ねた現在進行中のプロジェクトである。

問い合わせ

www.euphemiafranklin.com

www.playfulkimono.com