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2022年世界はこうなる(原題『The World Ahead 2022』)

2022年世界はこうなる(原題『The World Ahead 2022』)

英エコノミストが発行した『The World Ahead 2022』では、編集者トム・スタンデージ氏が2022年に注目すべき10のテーマを序章で紹介しています。

エコノミスト発行の『Megatech: 2050年の技術』は、弊社が共催した東京英国大使館でのセミナー&レセプションにおいて紹介されました。

2021年を世界がパンデミックの到来で様変わりした一年とするならば、2022年は新たな現実に適応する必要性一色にぬりこめられる一年となるだろう。それは、新しい仕事の仕方や今後のトラベルのあり方等の危機的状況に関わる様々な分野への対応であり、中国の台頭や加速する気候変動と言った根底にある動向がますます表面化することへの対応でもある。

来年注目すべき10のテーマとトレンドを挙げた。

1. 民主主義 vs 独裁主義。アメリカ中間選挙と中国共産党大会は、敵対する政治制度の対比を鮮明にするものとなろう。安定性、成長、改革を実現する上で優れているのはどちらか? この対抗意識は、貿易から技術規制、ワクチン、宇宙ステーションに至るすべてにおいて顕著になるだろう。民主主義の旗の下、バイデン大統領は自由主義世界を再結集させようとしているが、機能不全で分断されたアメリカがそのメリットを呼びかけるには役不足と言わざるを得ない。

2. パンデミック(世界的大流行)からエンデミック(一定地域で普段から継続的に発生する状態、風土病)へ。今後は新たな抗ウイルス薬、改良の進んだ抗体治療、そしてもっと多くのワクチンが登場するだろう。先進国でワクチン接種を受けた人にとって、ウイルスはもはや生命を脅かすものではなくなるが、しかし発展途上国にあっては、ウイルスは依然として致命的な危険をもたらすだろう。今後新型コロナは、ワクチン接種をさらに拡大させない限り、富裕層ではなく貧困層を苦しめる数多の風土病のひとつとして定着してしまうだろう。

3. インフレ懸念。サプライチェーンの混乱とエネルギー需要の急増によって物価が上昇している中央銀行はそれを一時的なものとしているが、誰もがそう信じているわけではない。英国はブレグジット後の労働力不足と高価な天然ガスへの依存によって、とりわけスタグフレーション(不況下のインフレ)リスクにさらされている。

4. 仕事の未来像。未来は「ハイブリッド」であり、今後はより多くの人が在宅で働く日数が増えるという考え方が広まっているしかし、具体的な中身については意見の異なる部分が多い。在宅日数は何日で、どの日に働くか? それは公平なものなのか? ある調査では、女性はオフィスに戻ることに意欲的でなく、その結果、昇進の対象から外れるリスクがあるかもしれないと報告されている。さらに、税法規やリモートワーカー監視に関する議論も生まれている。

5. 新たなテックラッシュ(巨大IT企業への反発)。アメリカとヨーロッパの規制当局は、長い間ハイテク大手企業を制御しようとしているが、いまだにその成長や利益を少しも抑え込めずにいる。現在主導権を握っているのは中国で、容赦ない規制によって自国のハイテク企業を激しく取り締まっている。習近平国家主席は、ゲームや買い物といった些末な分野ではなく、戦略地政学的有利さが得られる「ディープテック」に企業が注力することを望んでいる。しかし、これによって中国のイノベーションは後押しされるのか、それとも業界のダイナミズムに悪影響が出るのか?

6. 成長する暗号通貨。あらゆる破壊的テクノロジーの例に漏れず、暗号通貨は規制当局がルールを強化することで一般に受け入れられるものとなりつつある。中央銀行もまた、独自で一元管理するデジタル通貨を発行しようとしている。その結果、金融の将来をめぐって、暗号ブロックチェーンDeFi(分散型金融)クラウド、従来型のテクノロジー企業、そして中央銀行の三つ巴の戦いが2022年には激化するだろう。

7. 気候変動の危機的状況。山火事、熱波、洪水が頻度を増して発生していても、気候変動への取組みとなると緊急性の意識が驚くほど欠如している政治家が大半である。さらに脱炭素化においては、地政学的対立の深まる中、西側と中国が協力することが必要となる。ハーバード大学の太陽光地球工学研究チームに注目していただきたい。彼らは2022年に、高高度の気球を利用し埃を放出して太陽光を弱めるテストを実施したいと考えている。現状にあっては、脱炭素化のために世界規模での時間稼ぎを可能にする技術として必要と言えるかもしれない。

8. トラベル絡みの問題点。経済が再開するにつれてトラベルの活性化は戻りつつある。しかし、オーストラリアやニュージーランドのようにコロナゼロ「抑圧」戦略を推進する国々にとって、このウイルスが風土病として定着する世界に順応することは、手をこまねくしかない難しい課題となるだろう。コロナの状況下、実に5割にも達する出張が将来にわたり消失したといえる。そのこと自体は地球にとって良いことだが、高額出費のビジネストラベルのおかげで旅費が安価になっている観光客には不都合なことといえよう。

9. 宇宙競争。2022年は、従来の政府関係者を超える数の一般人が競争にしのぎを削る宇宙ツーリズム会社を使い、お金を払って宇宙へ行く最初の年となる見込みだ。中国は新しい宇宙ステーションを完成させる予定である。映画製作者は無重力空間で撮影しようと張り合っている。これもまるでハリウッド映画のようだが、NASAは現実のミッションとして宇宙探査ロケットを小惑星に衝突させようとしている。

10. スポーツに影を落とす政治。北京冬季オリンピックとカタール開催のサッカーワールドカップは、スポーツがいかに世界を一つにすることができるか見せてくれるだろう。だが一方で大きなスポーツイベントがいかに政治絡みの様相を呈しやすいかということも思い起こさせることとなろう。国の代表チームによるボイコットは簡単には起こらないにしても、両ホスト国に対する抗議行動があることは十分予想される。

2021年、ぱっと世の中を明るく照らしたニュースであったコロナのメッセンジャーRNAワクチンの急速な開発はあたかも一夜の成功のように見えたが、実は何十年もの努力の末に開発されたものである。他にどういった新しいテクノロジーが注目を集めることになるだろうか? 弊誌のスペシャルセクションでは2022年に向けて22の候補を挙げた。最後に、本誌のタイトルが「The World in」から、将来我々により良い立脚点を与えることに主眼を置いた「 The World Ahead」に新たに変わったことを申し添えたい。ご一読いただくことで読者諸氏にも同じ契機が訪れれば幸いである。

トム・スタンデージ

The World Ahead 2022編集者

The World Ahead: 2022 © 2021 The Economist Newspaper Limited, Londonより。無断複写・転載を禁じます。