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2023年世界はこうなる(原題『The World Ahead 2023』)

英エコノミストが発行した『The World Ahead 2023』では、編集者トム・スタンデージ氏が2023年に注目すべき10のテーマを序章で紹介しています。

エコノミスト発行の『Megatech: 2050年の技術』は、弊社が共催した東京英国大使館でのセミナー&レセプションにおいて紹介されました。

この2年間、パンデミックが目先の将来を方向付けていたが、現在は、ウクライナにおける戦争を主因として世界は動いている。これからの数か月は、この紛争がもたらす地政学と安全保障への影響をめぐる予測が不可能であること、インフレ抑制の難しさ、エネルギー市場における混乱、さらに中国が辿るポストパンデミックの不確かな道筋などに世界は対処していかねばならないだろう。また事態をより複雑にしているのは、これらすべてが強固に結びついており、すなわちがっちり嚙み合う複数の歯車のごとく確実に作用し合うことである。ここに来年注目すべき10のテーマとトレンドを挙げた。

1. 注視されるウクライナ情勢エネルギー価格、インフレ、金利、経済成長、食糧不足など、すべてが今後数か月の紛争の行方にかかっている。ウクライナによる急速な前進はプーチン大統領にとって脅威となり得るが、最も高い可能性はにっちもさっちも行かない膠着状態の持続である。ロシアは、エネルギー不足とアメリカの政治的変化によってウクライナへの西側支援が徐々に弱まることを期待して、紛争の引き延ばしを試みるだろう。

2. 不気味に迫る景気後退パンデミックの後遺症であるインフレがエネルギー価格高騰によって激化し、その抑制対策として各国中央銀行が金利引上げを行うことから、主要国経済は景気後退に陥るだろう。米国の景気後退が比較的穏やかに進むのに対し、欧州ではより深刻なものとなるだろう。ドル高が食料価格高騰によって既に打撃を受けている貧しい国々を苦しめるに至り、そうした痛みは世界中に広がるだろう。

3. 気候変動に関する希望の兆しエネルギー供給の確保が急務とされる中、各国はダーティーな化石燃料に回帰しつつある。しかし中期的には、この戦争によって独裁者の国が供給する炭化水素に代わり、より安全な再生可能エネルギーへの転換が加速されるだろう。風力や太陽光と並び、原子力と水素も見直されると考えられる。

4. 中国はピークを打ったのか? 4月のある時点でインドの人口が約14億3000万人に達するに至り、インドは中国を追い抜くことになろう。中国の人口が減少し経済が逆風にさらされる状況において、中国がピークに達したか否かに関する多くの議論が予想される。成長鈍化の意味するところは、中国経済が規模において米国を追い抜くことは決してないのではないかということだ。

5. 分断されたアメリカ共和党は中間選挙で予想を下回る結果を残したが、人工中絶、銃、その他激しい論争を呼ぶ諸問題がもたらす社会的・文化的分断は、争点を巻き起こす一連の最高裁判決に引き続く形で拡大し続けている。トランプ前大統領が2024年に大統領選に出馬する時点で、火に油を注ぐものとなろう。

6. 注視すべき一発触発地域ウクライナでの戦争に極度に全力注入していることにより、他地域での紛争リスクが高まる。ロシアが他の問題に目を向けることが出来ない中、その裏庭で紛争が勃発しているのである。中国は、台湾で行動を起こすには今がまたとない時であると判断するかもしれない。インドと中国の緊張関係はヒマラヤで再燃する可能性がある。あるいはトルコがエーゲ海の島をギリシャから奪おうとする可能性もあるのではないか?

7. 変化する世界の協力関係地政学的変化の中で、世界の協力関係にも動きが出ている。ウクライナでの戦争によって活性化したNATOは、新たに二か国の加盟を歓迎するだろう。サウジアラビアは、新興ブロックであるアブラハム合意に参加するのか? その他、QuadやAUKUS(中国の台頭に対抗することを目的としたアメリカ主導の二つの枠組み)そしてI2U2(まるでロックバンドのように聞こえるが、インド、イスラエル、アラブ首長国連邦および米国からなるサスティナビリティ・フォーラムである)などが重要性を増している。

8. リベンジに打って出る観光産業コロナよ、まいったか!とばかりに旅行者がロックダウン後の「リベンジ」観光に繰り出すことから、観光関連消費は2019年の1.4兆ドルをほぼ回復する見込みだが、もっともこれは単にインフレによる価格高騰に起因する。海外旅行件数16億という実際の数字は、パンデミック以前の2019年の18億をまだ下回っている。出張関連は、企業によるコスト削減を理由に依然として低調である。

9. メタバースの現実性仮想世界で働き、遊ぶというアイデアはビデオゲームを超えて広まるか? 2023年には、Appleが初めてヘッドセットを発売し、Metaが株価低迷の中で戦略変更の可否を決定するなど、答えの幾つかは出るだろう。一方で、それほど複雑ではなく直近に役立つ変化は、Passwordに代わる「Passkey」の登場かもしれない。

10. 新年、新語Passkeyは初めて耳にする言葉だろうか? 心配ご無用。弊誌のスペシャルセクション Understand This は2023年に知っておくと有益な重要語句をまとめているので、ぜひ参照願いたい。NIMBYはアウトでYIMBYはイン、そして 暗号通貨はもはやクールではなく、ポスト量子暗号がホット。さらにあなたは「凍結された紛争」や「合成燃料」を定義できるだろうか? すべてはここに網羅されている。

振り返ってみるに、パンデミックによって地政学と経済の相対的安定性と予測可能性の時代が終焉を迎えたといえる。今日の世界は、大国間の対立関係の変化、パンデミックの余波、経済の大混乱、異常気象、そして急速な社会的・技術的変化に激しく震撼し、かつてないほど不安定となっている。予測不可能である状態がニューノーマルとなり、それから逃れる術はない。しかし、The World Ahead 2023をご一読いただくことが、諸氏が自信をもってこの新しい現実に対峙するに際し有益となることを願うものである。

トム・スタンデージ

The World Ahead 2023 編集者

The World Ahead: 2023 © 2022 The Economist Newspaper Limited, Londonより。無断複写・転載を禁じます。