燕三条訪問
燕三条は、国内シェア90%を誇るカトラリー(金属洋食器)の生産地として日本で有名です。先日我々が同地を訪れた時も実感したとおり、今日の燕三条は活気にあふれています。ジャパン・ハウス・ロンドンで現在開催されている展示会 Biology of Metal: Metal Craftsmanship in Tsubame-Sanjo (「燕三条 金属の進化と分化」)では、燕三条の多くの製品を展示しその歴史を伝えています。
弊社の顧問を務める一橋大学の関満博名誉教授は、1990年のこの地域における金属加工産業に関する本を書き、産業変化の必要性について論じています。燕三条は、かつて米国への輸出に大きく依存していましたが、1985年のプラザ合意後の円高により輸出が大幅に減少したことから、同地の経済は低迷しました。それ以降は多様化が進み、製品の特性が重視されるようになりました。現在の燕三条は、ドイツのツヴァイリングや英国のシェフィールドと同じく同産業においてトップの地位にあります。
ロンドンの展示会開始に先立ち、我々は8月に燕三条を訪問しました。東京から新幹線に乗れば新潟の一駅手前が燕三条駅です。そこに降り立つとまず初めに、他にあまり例のないものに気づきました。駅から出ると、一方の出口からは三条市、反対の出口からは燕市に行くことができます。新幹線を境界として二つの市が隣合っている形です。三条市は人口が10万人、歴史的に武士の刀を作っていました。燕市は人口が8万人、瓦釘を伝統的産業としていました。公平を期すために、高速道路のインターチェンジの名前は三条燕となっています。
我々の最初の訪問場所は、燕市の玉川堂(ぎょくせんどう)でした。現在、創業家七代目当主が経営する玉川堂は202年の歴史を持ち、銅を材料とする非常に美しい製品を製造しています。我々も職人たちが一枚の銅板からやかんを作る工程を見学しました。代表取締役の玉川基行氏と番頭の山田立 氏のご挨拶を受けました。両氏は燕三条の会社数社にとって新たな発展のステップとなるジャパン・ハウスのエキシビションのためにロンドンを訪問することを楽しみにしておられました。また、過去20年以上にわたり新たな計画の策定において関教授が密接に協力した燕市の南波瑞夫副市長にもお会いしました。
三条市では、諏訪田製作所の爪切工場を見学しました。工場は一般公開されており、誰でも中に入って最高品質の爪切り製造の高度な技を見ることができます。燕三条では、毎年10月の4日間に多くの企業が工場を開放する画期的な「工場の祭典」が催されています(2018年は10月4日~7日)が、ジャパン・ハウスの展示会はそのイベントと協力して企画されました。
最後に必ず訪れたいのが、駅から歩いてすぐのところにある物産館です。そこでは、カトラリー以外にあらゆる種類の鍋、フライパン、また園芸用具などの製品の数々が展示されています。ジャパン・ハウスの展示会には、各地域産の異なる形をした鍬で形作られた日本地図があります。物産館でのランチは、食事メニューからまず食べ物を選び、さらにカトラリーメニューからカトラリーを選ぶことができました。そうしたカトラリーにはノーベル賞のストックホルムでの晩餐会で使われたものも含まれていました。
少しだけ足をのばせば、かつては銅が採掘された弥彦山の穏やかな山麓にある美しい弥彦神社に行くことができます。
燕三条は、独創的で考え抜かれた構想による地域活性化のケーススタディです。
「燕三条 金属の進化と分化」– ジャパン・ハウス・ロンドン 2018年9月6日~10月28日