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FT製造業の未来サミット

FT製造業の未来サミット

世界の製造業において、何が勝者と敗者を決める要因となるのでしょうか。その答えは、3つのC、つまりcode=コード、collaboration=協業、capability=能力、にあるのかもしれません。

Peter Marsh氏は、 103日~4日にロンドンで開催された「FT Future of Manufacturing Summit: Transformative Action to Enhance Industry 4.0 Value (FT製造業の未来サミット インダストリー4.0のバリューを高めるための変革的アクション)」において、これら3つのテーマを簡潔に説明しました。フィナンシャル・タイムズの前マニュファクチャリング・エディターであり、New Industrial Revolution(新産業革命)の著者であるMarsh氏は、開催両日においてパネル・ディスカッションの司会を務めました。弊社はMarsh氏と親しい関係にあることから、本イベントに参加しました。

Code(コード)は、世界に点在しているかもしれないプロダクトのネットワークをリンクさせる際にますます重要となるソフトウェアのラインを表します。Collaboration(協業)は、サプライヤー、デベロッパー、ユーザー、そして時には競合企業を結び付ける関係を指します。Capability(能力)は、多くの場合において魅力的とは見られないセクターに有能な人材を集めることに苦労する製造業者にとって大きな課題となる従業員スキルを指します。

3Cはフィナンシャル・タイムズが毎年開催する一連の「製造業サミット」の直近開催において注目を集めました。

今年5年目を迎えるFTサミットでは、製造業を自動車や製薬のような一連の異なる分野ではなく、一つの広範なセクターとして捉えています。この一連のサミットは、製造業がいかに変化しているか、また(会社の規模を問わず)意欲的な企業がどのように機会を捉えるかについて関心をもつ人々にとって非常に重要なフォーラムとなっています。

10月初にロンドンで開催された直近のフォーラムでのディスカッションにおいては、自動運転車、人工知能、IoT、そして英国EU離脱における課題などがテーマとなりました。ディスカッションの中心として、一見異なる産業分野の企業同士がどうやってお互いから学ぶことができるかが積極的に議論されました。

 

最初のC – コードの背景にあるものは何か?

連結するマシーンの間で「糊」のような働きをするソフトウェアあるいはコードは、データという一つの主要リソースを利用します。製造業の世界では、今やデータはエネルギー、原材料、そして優れた人材と同じほど重要なものとなっています。

製造プロセスが進む、または完成品が外界と接するたびに、データ情報が生成されます。

過去には製造業者の殆どが、データの収集、保存、あるいは加工を行っておらず、多くの場合、こうした作業のどれも行われませんでした。今では企業の考え方は変わり、記録を残したり判断を行うためにデータを利用するソフトウェアによってバックアップされたデータが自社の向上に役立つことが認識されています。

「(製造業界の)誰もがソフトウェア企業である。単にそれをまだ知らない人がいるだけだ。」これは、カンファレンスで述べられた言葉です。

無人自動車は、データとプロダクトがつながる一つの例です。周りにある他の車や物体と関わる自動運転車はIoTの実例であり、T(モノ)がたまたま大きく高価で車輪の上に載っているというだけです。

Sarah-Jane Williams氏は、フォードのスマート・モービリティ・ディレクターです。彼女の役割は、米国の自動車会社を単に車を作る会社から、社会的変化の「イネーブラー(実現を可能にするもの)」に変えることです。この変化において大きな役割を果たしたのが、自動車の新たな世代を制御するソフトウェアの開発です。Williams氏は、人は車のドライバーが基本的に主導権を握る「ユーザーが最適化する行程」を考えるのを止めなければならなくなるとみています。

そのかわり、ネットワークが支配する「システムが最適化する行程」に慣れていく必要が生じます。

フォードは、自動運転車の運用を考案する公的機関やその他の組織など、将来的に都市を管理する役割を担う他社とチームを組んでソフトウエアから収益を上げることを目指しています。

実務的にみると、製造機械をより効率的に使いたいと考える多くの製造業者にとって、ソフトウエアとネットワークは重要なものです。

例えば、工作機械を使う会社は、保守計画の作成や故障点検のために、機械をモニターするソフトウエアとリンクさせることが可能です。そうしたソフトウエアは、全世界に及ぶこともある多数の生産拠点のパフォーマンスを比較するために、多くの機械を記録・追跡することも可能です。

コンピューターおよびデータ企業であるIBMのグローバル・インダストリアル・プロダクツ部門ジェネラル・マネジャーであるManish Chawla氏は、日々のオペレーションで作られるデータがいかに新しい販売機会に結び付くかについて説明しました。「多くの企業が(データの)宝庫の上に座っている」とChawla氏はFTカンファレンスで述べました。

2番目のC – 協業は、企業が変化から利益を得るために大きな役割を果たすことができる。

例えばKone社。フィンランドのエスカレーターおよびエレベーターのメーカーであるKoneは、IBMがパートナーシップを結んだ数社のうちの一社です。

人がエスカレーターに乗ったり降りたりするたびに、データ情報が生成されます。それらを集めれば、ソフトウエアによって移動パターンに関する有用な情報が明らかとなります。それはオフィスビル1棟の中だけの場合もあれば、駅やショッピングセンターなど大型の集合施設全体の場合もあります。

もしこうした情報が「人の動き」(例えば、人がドアを出たり入ったりする動きについて)に関連するものを記録するセンサーにリンクしていれば、ビル建物内の生活の全体像が得られます。その結果ビルのオペレーターは、それら情報をエネルギー供給やセキュリティなど主要面の管理に活用できます。フランスの装置メーカーでありエネルギー管理サービスの提供会社であるSchneiderは、IBMのもう一つの重要なパートナー会社です。

IBMは、そのIoTビジネスにおいて他の数社と行う協業を示すことができます。例としては、スウェーデンの資本財企業であるSandvikで、鉱山掘削機の保守計画を作るために同社とのパートナーシップを応用しました。またメキシコの建築資材メーカーのCemexとの協業では、データ・ハーベスティングによって、新しい機械や資材の開発において有用な情報がフィードバックされ、Camexはセメントミキサーなどのハードウェアを顧客がどう利用するかについての深い理解を得ています。

しかし、協業はデータをより効率的に利用すること以上のものがあります。

ブリュッセルにある欧州エンジニア業界を代表する貿易機関であるOrgalimeのディレクター、Malte Lohan 氏は、「常にイノベーションは (企業間での)協業を通して最大化される」とカンファレンスで述べました。アイデアと知識を共有することによって、より良いプロダクトとソリューションが生まれるとも言っています。

米国のアルミ・メーカーであり、インドの企業グループHindalco傘下のNovelisのチーフ・エグゼクティブSteve Fisher氏は、それがどのように機能するかについて詳細に述べました。Fisher氏は、自動車材料の大部分を占める鉄鋼の補完材料としてアルミを使用する多くの自動車メーカーなど世界中の企業とNovelisが結ぶ多くのパートナーシップの中からいくつかを説明しました。

具体的な例として、Novelisと中国の自動車メーカーGeelyが所有する英国のLondon Electric Vehicle Company (LEVC)との関係が紹介されました。LEVCは、英国のコベントリーにある3億2500万ポンドを投資した工場で新世代電気自動車を生産しています。最初のモデルが、有名なロンドン「ブラック・キャブ」の最新バージョンとして使用されています。

NovelisはLEVCとの関係を通じて、新しいロンドン・タクシー向けのアルミの構造体と、車体の大部分の材料となる(自動車業界にとって比較的目新しい方向性の)ブラスチックをベースにしたコンポジット・パネルとをどのように接着できるかについて学んでいるとFisher氏は述べています。「我々は他にはない知識を得ている」とも言っています。

最後のC – 従業員の能力は、もう一つの主要テーマとして注目される。

適切なスキルなくして、製造業に携わる人、そして彼らを雇用する会社は、新しいテクノロジーが提供する機会を利用することはできないでしょう。若い人たちの就職先として製造業をもっと魅力的にすることは、古い考えよりも新しい考えを取入れることの方が受容しやすいと広くみられることからも、多くの事業会社にとって最大の関心事です。

NovelisのFisher氏は、彼の会社がこの問題にどうやって取り組もうとしているかの事例を挙げました。それは、学生による新世代ロボット開発を奨励するために米国のCharity Firstが企画し、アルミ・メーカーなど数社がスポンサーとなった世界的なコンペティションです。

「このコンペティションに関与することによって、我々は将来有望な人材の確保と産業界でトップの人材となる次世代育成を目指している」とFisher氏は語りました。

ドイツのエンジニアリング・グループSiemensの英国部門チーフ・エグゼクティブであるJuergen Maier氏は、そうしたプロジェクトの重要性を認識する一方で、教育専門家や政治家によって、あまりに多くのリソースがエンジニアリングや製造業に若者を惹きつけるための取組みにしばしば流用され、逆に既にこうした業界で働いている人に対する新しい考え方での教育が不十分であると言っています。「(既存の労働力の)スキル向上は、入社時の (人を惹きつける上での) 問題と同じくらい大きな課題である」とMaier氏はサミットで述べました。

SMEのパネル・ディスカッションでは、英国プリマスの会社Alderman Tooling のマネージング・ディレクターであるKaren Friendship氏は、現在全従業員のうち10-12%が実習生である同社にとって、教育がいかに重要であるかについて熱く語りました。

多くの製造業者にとってのゴールは、これら3つのC全てに同時に取り組み、その結果として成功のチャンスを高めることに違いありません。

写真提供はフィナンシャル・タイムズ