2024年世界はこうなる(原題『The World Ahead 2024』
トム・スタンデージ 2024年の注目トレンド10
英エコノミストが発行した『The World Ahead 2024』では、編集者トム・スタンデージ氏が2024年に注目すべき10のテーマを序章で紹介しています。
エコノミスト発行の『Megatech: 2050年の技術』は、弊社が共催した東京英国大使館でのセミナー&レセプションにおいて紹介されました。
『The World Ahead』編集者からの書簡
トム・スタンデージ著
時代はすさまじい速さであなたを巻き込もうとしている。急増する武力紛争や描き直されるエネルギー資源の世界地図、あるいは人口頭脳(AI)の飛躍的進歩など、世界は信じがたいスピードで変化している。中東情勢から電気自動車の利用、そして肥満治療にいたるまで、状況はわずか1、2年の間に大きく異なる様相を呈している。弊誌が目指すのは、読者の世界観が常に最新のものとなるよう尽力することであり、次に何が起こり得るかを読者に伝えることである。まずは来年注目すべき10のテーマを以下まとめた。
1.Vote-a-rama!(米国上院において多くの採択が必要となる予算案の決議が議員間の意見対立により困難な場合の対処方法)。 かつてないほど多くの有権者による選挙が世界中で行われ、民主主義における世界の在り方にスポットライトが当たることになるだろう。世界人口の半数を超える約42億人の人口を抱える国々において70以上の選挙が行われるのは2024年が初めてである。しかし、過去最多の投票が行われてはいても、必ずしも民主主義が成長しているわけではない。なぜなら、選挙の多くが自由にも公正にも行われないことが予想されるからである。
2.アメリカが選ぶ世界のリーダー。有権者、そして裁判所は3割程度の確率で大統領の地位を奪還するドナルド・トランプに評決を下すことになる。その行方は、一握りの激戦州の有権者数万人が鍵を握るのかもしれない。しかし、選挙結果の影響は世界に及び、気候政策からウクライナへの軍事支援まであらゆるものを左右するだろう。実際のところプーチン大統領の運命は、ロシアに不正選挙が存在することによって、自国の有権者よりもアメリカの有権者に委ねられているのかもしれない。
3.欧州よ、より強くなれ。 そうした中、欧州は最終的なEU加盟体制への道筋を示しながら、自らがより強くなり、ウクライナに対し長期戦において必要となる軍事的・経済的支援を提供しなければならない。こうした動きは正当なものであり、トランプが再び権力を得て支援を中止するリスクに対する備えにもなる。
4.中東の混乱。 ハマスのイスラエルへの攻撃、そしてイスラエルによるガザへの報復によって、この地域の様相は一変し、世界がパレスチナ人の窮状を無視し続けることもできるという考えを打ち消した。それは、より広範な地域紛争となるだろうか、あるいは平和に向けての新たな機会となるだろうか?資源に限界のある超大国アメリカにとっては、より複雑で脅威的な世界に適応できるかどうかのテストともいえる。
5.多極的無秩序。アジアに軸足を移し、台頭する中国との対立関係により注力するというアメリカの計画は、ウクライナ、そして現在のガザにおける戦争によって頓挫している。ロシアもまた混迷し影響力を失っている。凍結された紛争が融解しつつあり、局地的冷戦が世界中で激化している。サヘルにおいては不安定化が進んでいる。アメリカの「一極構造の瞬間」が終わった今、世界はさらなる紛争に向けて準備を進めている。
6. 第二の冷戦。 中国における成長鈍化、台湾を巡る緊張の高まり、そしてアメリカが続ける中国の先端技術へのアクセス制限を背景に、「新冷戦」の説得力が高まっている。しかし、サプライチェーンにおける中国依存を低減しようとする西側諸国にとっては、言うは易く行うは難しとなるだろう。そうした中で、両陣営はとりわけグリーン資源を求めて、グローバルサウスの「ミドルパワー(中堅国家)」を味方につけようとする。
7. 新たなエネルギー地理学。 クリーンエネルギーへの移行によって新たなグリーン超大国が生まれ、エネルギー資源地図が描き直されている。リチウム、銅、ニッケルはより重要となり、石油・ガス、そしてそれらの供給を独占する地域の重要性が低くなっている。グリーン資源をめぐる競争は、政治と貿易を再形成し、予期せぬ勝者と敗者を生み出している。一方で、気候に配慮した政策を一般人への支配層の策略とみる有権者の中では「グリーンラッシュ」の気運が高まっている。
8. 経済の不透明感。 2023年西側諸国の経済は予想以上に好調なものとなったが、まだ危機を脱したわけではない。たとえ景気後退が回避されたとしても、「長期間に高水準で」維持された金利は、企業にも消費者にも同じく痛みを伴うものとなろう。(銀行、そして事態が悪化する可能性もあり得るその商業資産を担保とする融資リスクを注視しなければならない。)中国がデフレに陥る可能性もある。
9. 現実化するAI。 企業がAIの採用を進め、規制当局による規制が始まり、そして技術者は改良を続けている。最適となる規制方法、また「実存するリスク」の議論が現職者にとって有利な計略なのか、を巡って論争が激化するだろう。想定外の利用や悪用が次々と出てくることも考えられる。AIによる雇用への影響や選挙干渉の可能性に関する懸念が山積している。その最大の現実的影響は? より迅速な符号化。
10. 世界の団結?。パリ・オリンピック、宇宙飛行士の月周回(多分)、そして男子クリケットのT20ワールドカップを世界が楽しんでいる間、おそらくイデオロギーの違いは当面忘れ去られるだろう。しかし、何らかの世界団結を望む人たちが諦める可能性も同様に高いといえる。
これらトレンドに関する詳細については、弊誌本編をお読みいただきたい。スーパーヒーロー映画から宇宙船打上げ費用まで、2024年に目が離せない注目すべき指標の豊富なデータを集めた「Trendlines」も要チェックである。諸氏にとって、The World Ahead 2024が今後一年の有益なガイド役となれば幸いである。
トム・スタンデージ、The World Ahead 2024編集者
本記事は、The World Ahead 2024印刷版において、編集者からのセクションで「編集者より」と題して掲載された。
The World Ahead: 2024 © 2023 The Economist Newspaper Limited, Londonより。
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