日本において増加する経営幹部への株式報酬制度
日本企業による株式を使った報酬制度は、企業環境やPMIにおいて重要な機能となりつつあります。Global Shares社のJohn Meehan氏およびRikako Bocchietti氏がそうした現状について以下説明します。4色の幾何学的図形を独特にブランド化したGlobal Shares社は、株式報酬制度開発の第一線企業として日本企業に対して各地での全面的サービスを提供しています。弊社は、Global Shares社ウェブサイトの当社について のページで同社が信頼するパートナーの一社として挙げられています。
日本企業は、経営幹部への報酬の手段を変化させつつある。従来の日本企業は、その報酬方針において金銭による交付を中心としていた。しかし、コーポレートガバナンスとグローバル市場の圧力が絡み合い、企業は金銭のみによる報酬から、欧米の同業企業と同じく金銭と株式の組合せへと変えていかざるを得なくなっている。日本企業は、業績へのインセンティブや投資家との一体感など従業員が株主となることの利点を認識し始めている。グローバル企業にとっては、海外の従業員が親会社の目標とバリューに共鳴するのを助ける一種の企業接着剤として、株式によるインセンティブが機能し得ることが重要である。
では、なぜ変化するのだろうか。以下に幾つかの理由をまとめた。
1. コーポレートガバナンス・コード改訂。とりわけ外国人投資家から一貫した圧力があり、日本企業がより多くの外国人投資家を惹きつけるためにガバナンスを改善するよう求められている。安倍政権の下、2014年に日本はグローバル競争力のギャップを埋めコーポレートガバナンスの基準を向上させるために多くの改革に着手した。具体的には、安倍内閣は「JAPAN is BACK」成長戦略の「日本再興戦略改訂2014」を掲げて改革プログラムを開始。こうした改革は、コーポレートガバナンス強化と日本の世界での収益力回復を目的とした安倍内閣による三本の矢戦略の一つであった。戦略の一環として、政府は業績等を基準とした株式報酬のカルチャー導入を促すことを決定した。その目的は、日本企業において蔓延しているとみられる不正行為の防止から、バリュー創造の必要性へと焦点を転換させることに一役買うことであった。2015年にはコーポレートガバナンス・コードが改訂され、企業は経営幹部に対するインセンティブとして金銭と同様に株式を活用することが奨励された。
2. 株式インセンティブの税制改正。2017年、株式報酬制度導入の障壁となっていた税制が緩和された。主な改正の結果として、業績連動株式、リストリクテッド・ストック・ユニット(“RSU” 事後交付型譲渡制限付株式)について控除可能な費用として算入が認められることとなった。
3. M&Aの増加。高齢化による国内市場縮小を背景として、日本企業は国外での買収にますます意欲的となっている。買収対象企業の多く、特に米国と欧州では既に株式報酬制度が導入されており、それらの従業員には買収企業によって同様の給付制度が提供されるとの期待がある。また、より賢明な日本企業は、株式報酬制度の活用が新たな従業員を親会社に迅速に統合するための優れた方法となり、企業の目標、バリュー、およびカルチャーを一体化するための有用なツールであると考えている。
4. グローバル株式インセンティブ導入の大幅な簡素化。我々の組織であるGlobal Shares社を含めグローバルサービスを提供する会社は、今や変化促進の役割を担い、世界中の従業員への株式給付に関する法律、コンプライアンス、技術、および規制上の障壁の多くを取り除いている。我々は、高度なソフトウエアを導入して、企業が国境をまたぐ経営上の課題を克服するのをサポートし、従業員が株式インセンティブの意味を理解するのに役立つ多言語、多通貨によるオンライン・アクセスを提供している。また、我々は自社株のみを管理する従業員用特別口座の仕組みを作り、世界中の従業員が簡単に日本の証券をオンラインで保有、取引することを可能にしている。
コーポレートガバナンスと税制の改正以降、現在約600社の上場企業がリストリクテッド・ストック・プランを既に導入、あるいは導入について株主承認を得ている。ストックオプションなど他の種類のインセンティブ・プランを含めると、インセンティブ・プランを導入している会社数は今や約1500社に上る。グローバルな株式インセンティブを導入している企業として有名な例は、富士通、資生堂、メルカリなど。しかし、こうした企業が多数ある一方、日本企業は未だに報酬ツールとして株式を活用することに非常に保守的であり、多くの場合、提供されるのは極めてトップの経営幹部に限られている。主な例外は、株式がM&Aのために利用される場合や、テクノロジー・セクターにおいて多くの企業が優れた人材を集めたり競争力を維持するために株式を使わざるを得ない場合である。メルカリはその良い例で、グローバルテックカンパニーとなるための原動力の一つとして、2018年にリストリクテッド・ストック・プランを全従業員1,000名に対して導入した。
そこで、将来的にはどうなるだろうか? 我々は株式インセンティブ・プランを採用する企業数が増加することを予想している。また、株式インセンティブがトップの経営幹部だけでなく、より下位の組織に対しても提供されることも予想される。最後に、日本においてこうした株式インセンティブがより主流となるにつれ、日本企業が株式インセンティブを改良し、おそらく株式インセンティブの従業員への提供方法において、いつの日かリーダーとなることを期待する。未来のことは誰にも予想できないが一つ確かな事は、日本における株式インセンティブの増加は今後も続くということである。
John Meehan
CEO Global Shares Japan
株式報酬制度に関して20年以上の経験を有す。世界のストック・プランのサービスおよび経営幹部の株式売買管理のあらゆる分野について深い知識を有する。2018年以降、株式インセンティブのための日本市場の発展に注力。株式報酬制度の分野に従事する前は、教師として3年間日本で過ごし日本とその国民や文化に強い愛着を抱く。Morgan StanleyにおいてHead of Client Managementとして勤務後、2015年にGlobal Sharesに入社。
Rikako Bocchietti
ビジネス開発エグゼクティブ
2018年にGlobal Sharesに入社し、日本部門の立ち上げ成功に貢献。Institute of Chartered Secretaries and Administrators Certificate in Employee Share Plans (Cert. ICSA)を最近修了した。現在、日本企業の欧州子会社向け市場開発を担当。Global Shares入社前は、パナソニックでアカウントマネージャーとして日本の大手企業の販売および顧客管理を担当。